往きてまた還らず



石井の小部屋ふぁいなるをご覧の皆様こんばんは。
石井です。
小説家 西村寿行氏の作品を紹介していくコーナー。
第2回目は「往きてまた還らず」をお送りします。

一般的なあらすじだとこんな感じです。
中郷広秋警視正率いる公安特科隊を脅かす大量無差別殺人が発生した。新宿が何者かの手によって爆破されたのだ。不運なことに、被害者の中には、伊能紀之隊員の姉が…。報復を誓い、追跡を続ける伊能。必死の捜査線上に僧都保行という男が浮かび上がったその直後に、今度は上野駅が破壊されてしまう。あざ笑うかのように犯行を続けるテロリスト打倒に執念を燃やす伊能と中郷だが―。死神シリーズの原点。

数多くある寿行先生の作品の中でもベスト3に入るほど好きな作品です。
今回もこのコーナー、ものすごくまじめに書かせていただきます。
お付き合いくださいませ。

「死神コンビ」と命名されトータルでは7作品もある人気シリーズの原点と言える作品ですが、こちらの「往きてまた還らず」は様々な意味で異彩な魅力を放つのです。

新宿で起きた爆破テロに巻き込まれた伊能紀之。鍛え抜かれた肉体、判断力のおかげで生き延びたのですが久しぶりに会う約束だった姉は焼死。
早くに親を亡くし姉と二人きりで育った伊能は職を超えた調査でテロの首謀者が僧都保行という名前であることを独自に突き止めるのです。
公安特科隊の隊長である中郷広秋は伊能を呼び出し個人プレーで得た情報をなんとしても吐かせようと拷問にかけるのですが、素肌を竹刀で滅多打ちにされても口を割らない伊能。
そもそも公安特科隊とは何か?
これは中郷が心血を注いで作り上げた組織であり、精鋭中の精鋭たちで諜報から武器の扱い、格闘技までとことん訓練された一騎当千の者が集まった特別隊なのです。



目を見張るのが中郷と伊能の関係性。

私、このシリーズは3作目の『頻闇にいのち惑ひぬ』から読んだのですが、中郷と伊能の会話はまるで漫才のようで、二人とも酒を飲んでいるばかり。
2作目からは海外が舞台となり世界中のテロリスト達と対峙するのですが、笑える要素も多分に含んでおります。

しかし本作品、冗談の要素は皆無。

姉の復讐を誓い警察まで辞して死に物狂いで僧都を追う伊能紀之。
公安特科隊を率いて僧都を追う中郷広秋。
環太平洋国家のせん滅をたくらむ僧都保行。
自身の目標を遂げようと狂気に取りつかれながら行動する三者。
三人とも後戻り出来ない状況が本タイトル「往きてまた還らず」の所以ではないでしょうか。

この小説、印象的なシーンばかりですが、中郷に拷問にかけられた伊能が「僧都を殺したらお前も殺してやる!」と中郷に吐くあたり、手に汗握ります。

さらに特異な場面は、伊能と僧都の妹である暁子の関係にあります。


独自の捜査により僧都に妹がいることを突き止めた伊能。
暁子の家に盗聴器を仕掛け、僧都からの連絡が無いかひたすら待つのですが、一向に僧都からの連絡が無いため業を煮やした伊能は直接行動に出るしかない・・・と考えるのです。直接行動とは拷問にかけることなのですが、看護婦として日々変わらぬ生活を送っている美しい暁子に対しそんな事が出来るだろうかと考えていたある日。
暁子の家に押し込みの強盗が入るのです。

顔を見られると今後の捜査に支障をきたすため、あえて放っておこうとした伊能ですが、自身が命を懸けて狙う宿敵の妹が強姦魔ごときに犯されるのを黙っているわけにはいかなかったのです。

強盗を簡単に叩きのめす伊能。

ここで、ついに伊能と暁子が邂逅するのですが、伊能が持つ独自の陰に兄の姿を感じる暁子、その暁子に対し焼死した姉の(姉も看護婦だった)面影を感じる伊能。やはり二人は惹かれあってしまうのです・・・


西村寿行氏の小説ははっきり言って恋愛と言うものは皆無と言っても良いのです。そのような意味でも二人の関係は特異といえますが、ここら辺はさすがに寿行先生。単純に行くわけがありません。

さて、ここまででも中盤ですが、これ以降はネタバレになりますので、伏せておきますが、ポイントを列挙させていただくと・・・

・ 先述した伊能と中郷、二人のすご腕捜査員の狂気的な捜査、二人の関係性。政府高官と中郷とのやりとり(首相すら怒鳴りつける)
・ 伊能と暁子の関係はどうなるのか?
・ 石油連盟が掲げた莫大な賞金により無法地帯となる僧都の潜伏場所
・ 僧都保行がもくろむ環太平洋のせん滅とはどのような手法なのか?
・ 僧都の手下、パレスチナゲリラのテロリスト(住民を機関銃で射殺)であり美貌の看護婦下野部克子の存在

等々、あげればきりがありませんが、全編面白く、まさに超ド級のエンターテイメント小説です。

この作品、70年代に書かれたのですが、まるで現代における各国のテロ事件を示唆しているかのようです。

改めて寿行氏の才能に驚かされますが、文章で疾走感を表現できる稀有な存在だと自信をもって皆様におススメさせていただきます。



虎落笛(もがりぶえ)

石井の小部屋ふぁいなるをご覧の皆様こんばんは。

石井です。

小説家 西村寿行氏の作品を紹介していくコーナー。

記念すべき1回目は「虎落笛」をお送りします。



ストーリー

死刑執行の立会検事・郷名は処刑直前、死刑囚・北岡の無実を確信。少ない時間の中で郷名を信頼した北岡は言います「私は、やっていません」
だが時はすでに遅く、幼時、人買いに売られ奴隷生活を送った北岡は「風が――冬の風が・・・」ということばを残し絞首刑に。職を辞し、北岡の過去を求めて探索行に出た郷名は、北岡の就籍地宮崎で、なぜか暴漢に襲われた。北岡の生い立ちに、いったい何が隠されているのか!

まあ、これだけ読むと某サスペンス劇場のように思われる方もいるかもしれませんが、いえいえ、これは寿行先生の作品です。そんなありきたりのお話ではありません。

郷名は妻に裏切られた孤独な元検事。知能が遅れていると疑いがある北岡が目撃した自動車事故が犯行を不可能にしていた事を如実に表していたのですが、すでに北岡が死んでいるため、意地になって「冬の風が・・・」という言葉に残された出生の謎を探す旅に出ます。

旅を続けるうち、何世代にもわたる北岡の血筋が明らかになり、実際に起きたであろう戦後の混乱からくる悲劇なども垣間見ることができます。郷名のもとへ謎の美女である陽子が現われ、罠と知りながら陽子に惹かれる郷名は、陽子の過去と北岡の過去が繋がっている事からさらなる調査を続け、また暴漢たちより執拗に命を狙われます。

北岡・陽子の母は、幼少時に人買いに買われ、オチョロ船といわれる屋形船で売春を行っており、劣悪な環境で精神を病みながらも必死に自身が生んだ子供とは離れないようにしていたのです・・・

亡くなった北岡を想い、陽子に特別な感情を抱いた郷名は、ついにすべての真相を明らかにするのですが・・・

この作品、何を隠そう私が初めて読んだ寿行氏の作品なのです。当時、たまたま氏の作品の代表作「犬笛」を本屋に階に行ったところ、売っていなかったのでこの「虎落笛」を買いました。

虎落笛とは、冬の激しい風が竹垣や柵 (さく) などに 吹きつけて発する笛のような音・・・だそうです。
死刑囚の北岡の記憶にある虎落笛のさびしい音色が郷名を奮い立たせたのですが、全編に漂う、他の作者ではとても真似できない男の孤独感、悲壮感、常に男に翻弄され続けてきた女性・子供たちの情景、さびれた日本海のどんよりとした空など、その表現力はあらためて感心致します。



西村寿行

皆様こんにちは。
小部屋管理人の石井です。

本日から新シリーズ(カテゴリ)をお送りします。

その名も「西村寿行」


西村寿行とは私が最も好きな小説家です。2007年にはお亡くなりになりましたが、改めて氏の素晴らしさを一人でも多くの方に知っていただきたく新カテゴリを開設させていただきました。

多くある作品は次回からご紹介させていただくとして、本日は西村寿行氏がどのような方であるか記してみたいと思います。

西村寿行氏は昭和1930年11月香川県生まれ。2007年8月76歳にて生涯を閉じました。
ハードロマンと名付けられた独自のジャンルは、ハードボイルドをさらにバイオレンスかつロマンあふれる(?)作品へと消化し、唯一無二の世界観を魅力的に作り上げております。

そしてこの作者の作品にハマる要因は、その文章力にあります。
無駄なものをすべて削ぎ落した文章はまるで極限まで鍛え抜かれたボクサーのようです。
それでいてとても格調高い文章なのです。これは読んでいただければ納得していただけると思います。
文章にスピード感があるため読者はスラスラと読み進め、作品の面白さも相まってあっという間に読破してしまいます。

多くの作品に見られるものとして、巨大な組織に対し主人公が孤軍奮闘するものがあります。
常に影をまといどこかに悲壮感が漂う主人公も魅力的な人物ばかり。

また、作者は一つの作品を描くのに1メートルにも及ぶ膨大な資料を読むそうです。
印象的なものでは、銃、兵器、諜報機関、動物(特に犬)などに、非常に造詣が深く、読者も物語を楽しみながら普段は持たない情報を学ぶことができるのです。
その他では民俗学のジャンルにも知識が深く、さりげなく名著「遠野物語」からの引用があったりもします。

極悪で強大なテロリストに挑む作品。
災害などを題材にしたパニック作品。
旅とハードボイルドが合致した作品。
誘拐された妻を探し全国行脚する作品。

等々、上げればきりがありませんが、私個人が西村氏に敬意を表して各作品をご紹介していきたいと思います。

次回の「西村寿行」をお楽しみに。

プロフィール

HN:
マンシー•カマラ
性別:
非公開
職業:
クレープ屋、ギター製作家、毒ガス管理業、台灣、ロボット職人
自己紹介:
はじめまして。
・石井(クレープ屋)
・栗山(ギター製作家)
・オマタ(毒ガス管理、散布業)
・うどん(ロボット職人)
Kロサワ楽器を自主退社した4人と
・ありこ(台灣)
・師匠(2017年8月20日脱退)
が加わり、日々様々な自己中話を投稿していきます。
動画も多数公開予定ですので乞うご期待!!

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